東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)193号 判決
一 本件に関する特許庁における手続、各訂正案の内容及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いなく、本件訴訟における争点は、帰するところ、本件審決が原告の第一訂正案につき審理判断をしなかつたことが、旧特許法に違反するかどうかにあり、その前提として、被告が抗争するように、第一訂正案が撤回されたかどうか、仮に撤回されなかつたとしても、抗告審判手続においては、訂正案なるものについて審理判断を要しないか、本件抗告審判においては、現実にその審理を遂げ、審決においてその判断を示したかが問題となるものであることは、本件における当事者双方の主張に徴し明らかである。
二 しかして、当事者間に争いのない事実によれば、本件出願から拒絶査定を経て審決に至るまでの経過は、次のとおりである。
(1) 原告は、昭和二八年三月一三日、米国出願に基づく優先権を主張して、本件出願。
(2) 昭和三〇年一二月一七日出願公告
(3) 昭和三一年二月六日石崎釗より特許異議の申立
(4) 同年九月二九日、原告は、特許異議答弁書を提出し、その附属書類として第一訂正案を提示。
(5) 昭和三二年三月一一日、異議申立人より第一弁駁書を提出して第一訂正案を反駁。
(6) 同年七月一五日及び同年九月一七日、原告より異議答弁書、同補充を提出して第一訂正案に対する異議申立人の弁駁に答弁。
(7) 昭和三三年一月二一日、異議申立人より第二弁駁書を提出して(6)の答弁書及び第一訂正案を反駁。
(8) 同年六月一一日、原告は、異議答弁書を提出して異議申立人の主張を反駁するとともに、第一訂正案をさらに訂正する用意がある旨を表明。
(9) 同年九月一九日、異議申立人より第三弁駁書提出して、第一訂正案を弁駁するとともに、原告が再訂正の意思を表明した米国特許明細書の誤訳を指摘。
(10) 同年一一月六日、原告より異議答弁書の訂正書を提出して右誤訳箇所を訂正。
(11) 同年一一月二〇日、原告異議答弁書(技術的な点についての答弁なし。)を提出。
(12) 昭和三四年一月一九日、異議申立人より第四弁駁書提出して(11)を反駁。
(13) 同年七月二九日特許異議の申立を理由ありとする決定とともに拒絶査定。
(14) 同年一二月八日原告抗告審判請求。ただし、第一訂正案のことは不服の理由とされなかつた。
(15) 昭和三五年一〇月一三日、原告は上申書を提出して第二訂正案を提示。
(16) 昭和三六年八月九日審決
以上のような特許庁における手続の経過に、本件記録上明らかな、原告は、昭和三六年一二月一八日、右審決に対する不服の訴を提起したが、昭和三七年五月二二日付準備書面(第三回)において、「本件特許請求の範囲を第一訂正案のように訂正したいという希望を述べたことがあり、目新しいものではない」というにとどまり、第一訂正案を考慮しない本件審決は審理不尽のそしりを免がれない旨主張したのは同年九月一五日付準備書面(第四回)においてであつた事実及びその成立に争いのない甲第三号証の一〇によつて認められる、原告は、第二訂正案を記載した上申書の冒頭に「特許請求の範囲を今回次の如く訂正したく思います」と記載している事実とを参酌考量すれば、原告は、少くとも、第二訂正案を提示した昭和三五年一〇月一三日当時においては、第一訂正案を撤回し、これに代えるに第二訂正案をもつてしたものを認めることができ、これを左右するに足るなんらの証拠はない。
はたしてしからば、本件審決当時、第一訂正案が第二訂正案とともに並び存在していたことを前提とする原告の本訴請求は、爾余の一切の点につき判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。けだし、第一訂正案が存在しない以上、訂正案の性質その他について如何なる見解をとるにしても、これについて審理判断をしなかつたことの是非を論議する余地は全くありえないからである。
よつて、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、これを失当として棄却することとする。